吉祥寺シアターハラスメント防止ガイドライン
1.ガイドライン策定の趣旨
吉祥寺シアターは劇場開設以来、舞台芸術の創造、普及、および発信の拠点として、次世代の芸術文化振興を図るため、アーティストや観客に向けて劇場がより開かれた場所となるよう取り組んできました。
劇場が健全な心の拠り所となるためには、劇場に集うすべての人が互いに尊重し、理解し合い、安心して表現や交流を楽しめるようにすることが大切です。
ハラスメントは、そのような環境を阻害し、個人の尊厳と人格を傷つける行為です。劇場が観客に提供する芸術文化事業において、ハラスメントの発生を黙認して発信することは、被害者への加害、並びに観客をハラスメント事案に巻き込む行為であると考えます。劇場に集うすべての人を被害者にも加害者にもしないために、吉祥寺シアターはハラスメントの防止に取り組みます。
このガイドラインは、吉祥寺シアターの事業に関わるすべての人(以下関係者)に対し、ハラスメントの定義を確認するとともに、理解を促すことで、その防止に努めることを目的に策定しました。
今後、ハラスメントの定義やそれに基づく動向は、社会状況によって変化していく可能性があります。そのため、施設利用者や舞台関係者等の方々からのご意見をお聞きしながら、必要に応じて都度このガイドラインの内容見直し、改訂を行っていきます。また、ハラスメント事案が発生した際には、このガイドラインに即し、迅速に問題解決と再発防止にあたることとします。
2.ハラスメントの定義と事例
2.1.ハラスメントとは
ハラスメントとは、行為者の意図とは関係なく、他者に身体的又は精神的苦痛や不利益を与え、尊厳を傷つける言動の総称です。単に業務上の指示をするだけではハラスメントにはなりませんが、同じ言葉を聞いても言動に対する受け止め方には個人間・立場などによって差異があり、善意からの言動でもハラスメントに該当する場合があります。
2.2.禁止行為
すべての関係者は、他の関係者を業務遂行上の対等なパートナーとして認め、健全な秩序と協力関係を保持する義務を負います。また、自己の言動に注意を払い、以下の行為を行ってはなりません。なお、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ることに十分留意し、以下の行為はあくまで一例であることを認識してください。
パワーハラスメント
上位の立場や優越的な関係を背景にして、業務の適正範囲を超えた叱責や嫌がらせを行う行為を指し、代表的な類型として以下が挙げられます。
- 殴打、足蹴りなどの「身体的攻撃」※暴行・傷害は犯罪行為です。
- 人格を否定するような言動をするなどの「精神的な攻撃」
- 自身の意に沿わない人に対して、無視や、仕事に必要な情報を教えないなどの「人間関係からの切り離し」
- 長期間にわたり、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、業務に直接関係ない作業を命じるなどの「過大な要求」
- それまで行っていた業務を必然性なく奪う行為、「もう仕事はするな」と言い放置する行為などの「過小な要求」
- 業務上の必要なくプライバシーを過度に詮索・口出しする行為、他者の性的指向・性自認や病歴などの機微な個人情報について本人の了解を得ずに周囲に暴露する行為などの「個の侵害」
セクシュアルハラスメント
性的な言動や欲求によって、相手に不快感や不利益を与え、働く環境を悪化させることを指します。
- 性的及び身体上の事柄に関する不必要な質問・発言
- わいせつ図画の閲覧、配付、掲示
- うわさの流布
- 不必要な身体への接触
- 性的な言動により、他者の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為
- 交際・性的関係の強要
- 性的な言動への抗議又は拒否等を行った人に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換等の不利益を与える行為
- その他、相手に不快感を与える性的な言動
モラルハラスメント
言葉や態度によって相手の心を傷つける精神的な嫌がらせで、無視する、暴言を吐く、嫌みを言うなどの言動を指します。上下関係の有無は関係なく、あらゆる人間関係において発生する可能性があります。
- 他者の容姿、身体的特徴、人間性や能力を否定・侮辱し、相手の尊厳を傷つけるような言動
- 他者を人種、国籍、セクシャリティなどの属性などにより差別する言動
- 他者に不安や恐怖を与え、そのことで相手を支配・コントロールしようとする言動
- 心理的な圧力や脅迫、嫌がらせ、仕事の妨害など職場環境を悪化させるような言動
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
- 妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用等に関し、解雇その他不利益な取扱いを示唆する言動
- 妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用を阻害する言動
- 妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置を利用したことによる嫌がらせ等
- 妊娠・出産等したことにより、解雇その他の不利益な取扱いを示唆する言動
- 妊娠・出産等したことに対する嫌がらせ等
立場の弱い者がハラスメントを受けている事実を認めながら、これを黙認する権威者・その場の管理責任者の行為
2.3.業務上必要な指導・注意とハラスメントの違い
ハラスメントに対して正しい知識を身につけていないことから、指導や演出の範疇の言動に過敏に反応し、創作過程でコミュニケーション不全に陥るといったケースも増えています。どんな行為がハラスメントに該当し得るのか、正しく理解し、正しく伝えていくことが必要です。
業務上必要な指導・注意と考えられる事例
- 仕込み中に、注意散漫で舞台美術を倒しそうになった人に対し「集中しろ!」などと強い口調で言う。
ハラスメントに該当すると考えられる事例
- 上記のミスをその後も執拗に繰り返し指摘し、威圧的言動を繰り返す。
- 上記のミスを注意する際に「これだから男/女は」「今まで何を学んできたんだ」などと、その人の属性やキャリアを否定する発言をする。
「ハラスメント」を判別する基準
- 業務上必要かどうか。
- 場は適正かどうか。
- 普段から意見を言いにくい環境になっていないか。
- 不快にさせる発言・行為を繰り返し行っていないか。→もしリスペクトに欠けた言動をしてしまった時は、間違えたことをすぐに謝り、二度と繰り返さないようにすることが大切です。
- 相手の属性(明日変えろと言われて変えられるようなものではないもの)や人格・キャリアを否定していないか。
- 指導・注意に一貫性があるか(感情で指導・注意をしていないか)。
- 相手にとって実現可能な指導・注意になっているか。
3.吉祥寺シアターで行われる事業について
3.1.主催事業
吉祥寺シアターが企画・製作し、創作過程を含む全般を運営する主催事業の場合、ハラスメントを防止するための措置を講じ、被害等が発生した場合の対応を行うのは原則として吉祥寺シアターです。吉祥寺シアター以外での場所で創作や上演が行われる場合や、時間外に行われる関係者との会合や懇親会等において、業務の延長と考えられる場などについても該当する場合があると考えます。
3.2.その他の自主事業
吉祥寺シアターが業務を委託して実施する事業及び、劇団や舞踊団、芸術団体や製作会社が主催し吉祥寺シアターが共催・提携・協力する事業の場合、ハラスメントを防止するための措置を講じ、被害等が発生した場合の対応を行うのは原則として主催者と考えます。しかしその場合も、吉祥寺シアターはハラスメント防止の重要性を共有し、本ガイドラインの趣旨を踏まえた形で事業が実施されることへの理解を求めていきます。ハラスメントが生じた場合、当該団体に情報提供や責任ある対応を求めるとともに、状況に応じて公演の停止や契約変更を行う場合があります。
3.3.貸館事業
貸館での施設利用において、催しを実施するにあたって施設内で行われる行為の責任者は、施設利用者となります。施設利用者に対しても、本ガイドラインの趣旨を踏まえた形で催しが実施されることへの理解を求めていきます。ハラスメントを防止するための措置を講じ、被害等が発生した場合の対応を行うのは、原則として施設利用者です。
なお、劇場スタッフが被害者となるようなハラスメントが生じた場合、管理上の支障があると判断し、条例に基づき施設使用許可を取り消す場合があります。
4.ハラスメントの防止
4.1.ハラスメントの防止目的
ハラスメントが発生すると、個人の尊厳と人格が傷つけられ、安全に過ごすことができなくなり、健全な芸術鑑賞活動・創作活動に支障をきたします。また、ハラスメントの発生に至らなくても、自由で対等な対話ができなくなっている環境では、活動が萎縮し、組織運営上の問題が起こりやすくなります。よって、吉祥寺シアターでは、ハラスメントの防止とともに、ハラスメントが起きにくい環境づくりに取り組みます。
4.2.ハラスメント防止のための取り組み
吉祥寺シアターでは、劇場スタッフや関係者で本ガイドラインを確認する機会を定期的に設け、講習会の実施・受講などとあわせて意識啓発に努めます。また、吉祥寺シアターの自主事業実施の際には、契約締結の段階で本ガイドライン遵守に同意していただくこととします。
4.3.ハラスメント事案への体制と対応
吉祥寺シアターは、起きてしまったハラスメントに厳正に対処します。その目的は、被害者の尊厳や権利の回復と再発防止です。行為者への攻撃や排斥が目的ではありません。ある行為がハラスメントにあたるかどうかは、その行為が発生した状況や業務上の必要性も踏まえて、慎重に判断されます。
4.4.相談窓口
4.4.1.ハラスメント相談窓口
吉祥寺シアターの関係者は、自らがハラスメントを受けたと感じた場合、もしくは理性的な第三者によってそのようにみなされた場合、受け手本人あるいは第三者が「ハラスメントである」として相談することができます。公的機関の相談窓口のほか、以下の窓口まで匿名で相談することも可能です。ただし、その言動がハラスメントに該当するか否かの判断は、調査・措置協議の結果によります。
吉祥寺シアターハラスメント相談窓口
実際にハラスメントが起こっている場合だけでなく、その可能性がある場合や放置すれば就業環境が悪化するおそれがある場合、ハラスメントに当たるかどうか微妙な場合も含め、広く相談に対応し事案に対処します。相談には公平に、相談者だけでなく行為者についても、プライバシー保護に最大の配慮を行い対応します。相談者の意思に反して、加害者及び第三者に口外することはありません。また、相談者はもちろん、事実関係の確認に協力した方に不利益な取扱いは行いません。
相談を受けた場合には、ハラスメント対策チーム(吉祥寺シアター職員を中心に、事案によっては関係者・第三者に協力を要請する場合があります)を結成し、事実関係を迅速かつ正確に確認します。事実が確認できた場合には、被害者に対する配慮のための措置及び行為者に対する措置を講じます。また、再発防止策を講じる等適切に対処します。
4.4.2.公的機関等の相談窓口の紹介
- ハラスメント悩み相談室(厚生労働省) https://harasu-soudan.mhlw.go.jp/
職場でのセクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント、パワーハラスメントのことで悩んでいる方・お困りの方などからの相談窓口です。 - みんなの人権 100 番(法務省) https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken20.html
差別や虐待、パワーハラスメントなど、様々な人権問題についての相談を受け付ける相談電話です。 - 女性の人権ホットライン(法務省) https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken108.html
配偶者やパートナーからの暴力、職場等におけるセクシュアルハラスメント、ストーカー行為といった女性をめぐる様々な人権問題についての相談を受け付ける専用相談電話です。
4.4.3.相談の流れ
令和6年9月25日
吉祥寺シアター