吉祥寺ダンスLAB. vol.2『サーチ』レポート(2)(いつか床子)

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ページ番号1002078  更新日 2022年3月28日

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「カンゲキのススメ」では、主に吉祥寺シアターで上演される作品に関連して、インタビュー、劇評、レポートなどさまざまなコンテンツを掲載いたします。これからシアターでどんな作品が上演されるのか?どんなアーティストが関わっているのか?作品の魅力を少しでもお伝えできれば幸いです。

今回取り上げるのは、1月25日(土曜)・26日(日曜)の本番に向け絶賛制作中の「吉祥寺ダンスLAB. vol.2『サーチ』」。このページでは、作品のクリエーションの様子を数回に渡りお届けします。二回目はライター・インタビュアーのいつか床子さんによる稽古場レポートです。

1月14日 稽古場レポート 言葉を踊らせるために

「インタビュアー」という仕事を細々と続けてきてこの方、途方にくれ続けていることがある。現実と文字とのあまりの隔たりについてだ。取材先で感じた温度が、文字にすると突然失われてしまうことがよくある。思いやりに満ちた発言だったのに文字にするとぶっきらぼうになったり、ちょっとした余談が必要以上に存在感を放って本人の意図をずらしてしまう。現実と文字はあまりに別物で、そのあいだを行き来するのはいつもちょっとした旅だ。もう少し迷子にならずにたどり着けないものかと思っていたときに「テキストからダンスを創作する」という今回の企画の稽古場を見学させてもらえることになった。テキストからダンスを作る。文字を現実に連れて行く。それは丁度、私がやっていることの反対の道程だ。その様子をどうしても観たくて吉祥寺シアターに足を運んだ。

写真:稽古場の様子1

舞台セットもない、お客さんもいない劇場は、ぽかんと広く、そして静かだ。ほとんど何も置かれていない素舞台に、アクターである岩渕さんと酒井さんが佇んでいる。
今回の公演は、テキストと音楽を劇作家にして作曲家である額田さんが、振付とダンスをダンサーの岩渕さんが務めるのだという。すでにテキストは完成されており、稽古ではそれをいかにダンスにしていくかを試行しているところだった。

写真:稽古場の様子2

実は私は「ダンス」とはどういうものなのか、よくわかっていない。クラブのように音楽に合わせて体を揺らしたり、あるいはバレエや盆踊りのように特定の動きをすれば、それは「踊っている」と言えるだろう。しかし劇場はまったくの無音だし、テキストはあくまでテキストであって、どこにも踊り方が書かれていない。(言葉を踊るとは?)と考えているうちに、ふたりの登場人物がボウリングをするシーンの稽古が始まる。そしてそれはとても不思議な光景だった。
ボウリングのシーンをするからといって、ボウリングのジェスチャーをするわけではない。ピンが倒れる「ガッシャン」という擬音に導かれるように、岩渕さんと酒井さんの体は好き勝手に動き、転がっていく。「相手がこう動いたんだったら、こちらはこう動いてみよう」という無言のやり取りが発生して、テキストとは別のレイヤーになって舞台上に重なっていくのだ。

写真:稽古場の様子3

面白いのが、ダンスは岩渕さんと酒井さんとのやり取りのなかで偶発的に姿を形を変えていくので、ダンス的な緩急とテキスト的な緩急が必ずしも一致しないところだ。テキストの途中の何気ない会話のなかでいきなりダンスが激しさを増したりする。そこにはダンスだけでもテキストだけでも発生しないたわみのようなものがあって、目が離せなくなった。同じシーンを数回やったが、どれも全く違うものになる。額田さんはそれを「フリージャズ」と例えていた。全シーンでこのような試行を繰り返し、自由な余白は残しつつ、決める動きは決めて作品になっていくらしい。
テキストからダンスを作ることについて、「自分の頭からではなく、言葉を起点に体を動かすことが難しい」と岩渕さんは言う。言葉はいろんなイメージを導いてくれるが、一方で咄嗟の動きを限定させてしまうという難しさもあるようだった。額田さんと酒井さんの三人で「どこまで動きを抽象化するか」のディスカッションも行われ、テキストを舞台上に連れて行く道のりもまた平坦ではないようだ。

写真:稽古場の様子4

それにしたって、音楽も振りもなく静かに展開していく身体を眺めるにつれ「つまるところダンスってどういう状態のことを言うのか?」ということが気になって仕方がない。アクターの二人に尋ねてみると、岩渕さんは「自分の考えと動きが一致しているとき」がダンスだと言い、酒井さんは「意識や動きなど、何かが継続していたらそれはダンスだと思う。一見バラバラでも、リズムがあればダンスになりえる」とのことだった。舞台の上だけでなくとも、ダンスは発生しうるのだという。私たちの生活や何気ないおしゃべり、出会う言葉の端々たちも、意識を向ければダンスになりうる。それは個人的には大きな発見だ。今回の公演で目撃するダンスは、私たちを踊らせてくれるきっかけにもなるかもしれない。

いつか床子(いつか ゆかこ)/ライター・インタビュアー

武蔵野文化事業団にて、チケット販売中!

チラシ:吉祥寺ダンスLAB. vol.2『サーチ』

吉祥寺ダンスLAB. vol.2『サーチ』

[振付・ダンス]岩渕貞太 [テキスト・音楽]額田大志 [出演]岩渕貞太 酒井直之 他

1月25日(土曜)19時00分 1月26日(日曜)14時00分

1月20日(月曜)19時00分~20時30分 公開リハーサル&トークセッション開催決定!
入場無料、皆さまお気軽にご来場ください!