未踏の空間へ ―連作《貴婦人》

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ページ番号1007916  更新日 2025年6月4日

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会期
2025年6月12日(木曜)~2025年11月3日(月曜)
会期中休館日

2025年6月25日(水曜)、7月9日(水曜)、10日(木曜)、15日(火曜)~25日(金曜)、30日(水曜)、8月27日(水曜)、9月8日(月曜)~19日(金曜)、24日(水曜)、10月29日(水曜)

「絵画の中の立体感とは、その物の立体を描くことではなく、その物を含めた、画面全体の空間を表現し得た場合、その物の立体感や存在感が実現するのである。(中略)その画面の中に、空間を再現出来れば、その絵は額縁の中だけでなく、外への広がりを見る人に与える」―萩原英雄はこう述べています。

萩原は、版画作品によって世界にその名を知られるようになりましたが、彼は終生、「画家」として在りました。「如何に時代が変わろうと、二次元の絵画のみが持つこの不可思議な空間の深さは、絵画のもっとも重要な要素として持ち続けねばならぬもの」であるという確信のもと、萩原は、平面による空間表現の可能性を追求しました。とりわけ、木版画という表現技法の制約―木の版で、水性絵の具をもちいて、バレンで摺る―のなかで、深くひろい空間を創出すべく、挑戦をつづけたのです。

1975年の連作《貴婦人》には、針金を仕込んだバレンによる摺り、凹版、凹凸同時の摺り、銅版画用具の応用など、萩原が実験を繰り返して生みだした、さまざまな技法がもちいられています。限られた色数でありながら豊かな色彩を感じさせる画面は、油彩画のような重厚さと、素描のような軽やかさをあわせもちます。モチーフとして描かれる「貴婦人」たちは、それぞれに伸びやかな存在感をはなち、空間の奥ゆきと広がりとを伝えています。

萩原英雄が木版画の画面に拓いた、それまで誰も到達し得なかった空間と、存在感。心のなかで画面の内外を行き交いながら、無限の平面世界を存分に味わってみてください。

 

引用はすべて 萩原英雄『美の遍路』(1996年、NHK出版)

作品:貴婦人 No.6
萩原英雄《貴婦人 No.6》1975年

萩原英雄略歴

1913(大正2)年
山梨県甲府市に生まれる
1932(昭和7)年 19歳
白日会第9回展に油彩「雑木林」出品、光風会展第19回展に油彩「上り道」出品
1938(昭和13)年 25歳
東京美術学校(現東京藝術大学)油画科卒業
1951(昭和26)年 38歳
銀座資生堂で「萩原英雄(油彩)」個展開催
1956(昭和31)年 43歳
銀座養清堂画廊で「萩原英雄版画」個展開催、日本版画協会、第24回展出品、以後、第43回展を除き出品を重ねる
1960(昭和35)年 47歳
第2回東京国際版画ビエンナーレで神奈川県立近代美術館賞受賞
1962(昭和37)年 49歳
第7回ルガノ国際版画ビエンナーレでグランプリ受賞
1963(昭和38)年 50歳
第5回リュブリアナ国際版画ビエンナーレでユーゴスラビア科学芸術アカデミー賞受賞
1966(昭和41)年 53歳
第5回東京国際版画ビエンナーレで文部大臣賞受賞
1967(昭和42)年 54歳
第1回チェコスロバキア国際木版画ビエンナーレでグランプリ受賞
2007(平成19)年
11月東京で歿、享年94歳