宮本典刀―街の記憶―

Xでポスト
フェイスブックでシェア
ラインでシェア

ページ番号1007658  更新日 2025年3月1日

印刷大きな文字で印刷

作品:青の街角
《STILL-27(青の街角)-(2)》 2000年 アクアチント、エッチング

どこかにある、どこでもない、街の風景―。

銅版画家・宮本典刀は、いわく「心のなかに沈んでいる記憶」を丁寧に拾いあげ、それらを再構築して、街の風景を描いています。

宮本は、旅先で、あるいは日常生活の延長で、大通りから人目につかない裏路地にいたるまで、長い時間をかけて、街を歩きまわります。その間、スケッチブックをひろげて写生をしたり、メモを取ったりすることはありません。彼はひたすら歩きつづけ、光や色、肌に触れる空気、におい、音など、街をかたちづくっている要素を、そのままに、心身に受けとめてゆきます。そして、宮本のうちに集積した街のさまざまな「記憶」は、切妻屋根の家々、煙突や橋といった、人間の暮らしを暗示する構造物のかたちをとって、描きだされます。

宮本の画面は、微細かつ均質な粒子によってあらわされたアクアチントの色面を、彼のきわめて精密な技術をもって構成することで成立しています。いわゆる写実からは遠いところにあるフラットな表現は、私たちを個の特定から解き放ちます。どこでもない風景のなかで、私たちは自身の心奥に眠る「記憶」との邂逅をはたし、私たちを私たちたらしめているものと、向き合うことになるのです。

また、音楽との関係性も特筆すべき点です。宮本は日ごろから多彩な音楽に触れ、とりわけスペインやポルトガルの民族音楽、またF.モンポウやR.シュトラウスなどの楽曲を愛聴し、ときに音楽から着想した画題も生まれます。とはいえ彼は、音楽との結びつきを殊更に意識しているわけではありません。「色をみると音が聴こえる」「音がみえる」とは宮本のことばですが、たとえば絵画作品などを鑑賞する際にも、そこにおのずと音を感じとるといいます。

本展は、宮本典刀の作品を個展として紹介する、美術館では初めての機会です。宮本がアクアチントの色面によって街を描き始めた1999年以降の作品を中心に、最初期作と最新作を含む約70点を展観します。

あらゆる情報が瞬時に過ぎ去ってゆくばかりのいま、私たちが見失った「記憶」はどれほどあるでしょうか。宮本の作品をとおし、それらとふたたび出あうことができるかもしれません。

 

作品 広場
《広場》 2005年 アクアチント、エッチング
作品 青の街角
《青の街角》 2017年 アクアチント、エッチング

基本情報

2025年度吉祥寺美術館企画展 宮本典刀―街の記憶―

会期 2025年4月12日(土曜)~6月1日(日曜)

休館日 4月30日(水曜)、5月28日(水曜)

開館時間 午前10時00分~午後7時30分

入館料 一般300円、中高生100円、小学生以下・65歳以上・障がい者のかたは無料

主催 武蔵野市立吉祥寺美術館(公益財団法人 武蔵野文化生涯学習事業団)

関連イベント

(1)アーティストによるギャラリートーク 4月26日(土曜)午後2時00分~

(2)鈴木大介ギター・コンサート 5月24日(土曜)午後3時00分~ 

詳細は「イベント」のページをご覧ください

特別展示

宮本典刀―路地裏―

会場 PENNY LANE GALLERY(コピス吉祥寺A館1階、吉祥寺美術館と同じ建物内)

会期 2025年5月2日(金)~5月8日(木)

開場時間 午後1時00分~午後6時00分 ※初日は午後2時から、最終日は午後4時まで

入場無料・会期中無休

作品 夕景の街
《夕景の街》 2023年 アクアチント、エッチング