大坪美穂 黒いミルク―北極光・この世界の不屈の詩―

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ページ番号1006116  更新日 2024年3月1日

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作品:黒いミルク
「大坪美穂展―海界―」(香美市立美術館)展示風景 2008年 ©Kei Uesugi

大坪美穂(おおつぼ・みほ)は、人間存在を主題とするアーティストです。現代の問題を鋭敏に感受しながら、重厚な作品空間を創出しています。

最初期には絵画や身体表現に取り組んでいた大坪ですが、家族の死と誕生、自らの病、人間の尊厳を揺るがすできごとの見聞といった経験をとおして、表現の手法を変化させていきました。近年では、自ら収集し染めた古布、ニュースペーパーと和紙による紙縒り、薄い鉛板などを素材にもちいて制作しています。大坪の作品とは、あまねく必然としての創造であり、大坪自身の生の実証であるといえるでしょう。

大坪の作品をかたるうえで特筆すべきは、その素地にある「ことば」です。大坪の表現の源流には、彼女が豊富な読書経験や詩作などからとらえた、さまざまなことばが存在しています。わけても、ドイツ系ユダヤ人の詩人パウル・ツェラン(1920-1970)、アイルランド語によって詩作する女性詩人ヌーラ・ニー・ゴーノル(1952- )の詩は、大坪の血肉になっているといっても過言ではありません。大坪がふたりの詩から受けとった深い感動は大規模なインスタレーションとして発露し、20年超にわたって国内外の各地で展開され、多くの人びとの心を引きこみながら、広がりと深化をつづけています。

終戦直後の荒廃した街並みが原風景であると語る大坪は、いかなる局面にあっても、作品にあらわすことによって、確かな生をつかもうとしてきました。本展のタイトルとして大坪が選んだことば―「黒いミルク」はツェランの詩「死のフーガ」に依拠し、「北極光」「この世界の不屈の詩」はニー・ゴーノルの詩「北極光」(*)から引いています。言うなれば闇と光とが並立するタイトルですが、ここには、割り切れぬ人間のありようと、それを直視しつつ希望を見失わない大坪の力づよさとが、示されているように思います。

吉祥寺は、大坪が学生時代を過ごした思い出深い地であり、創造の起点でもあります。このたび満を持して当館において構成されるインスタレーションは、大坪の仕事の集大成であると同時に、皆さまとともに踏み出す、生へのあらたな一歩となるに違いありません。

 

*Nuala Ní Dhomhnaill translated by Peter Fallon from Northern Lights (2018) is reproduced by kind permission of The Gallery Press.

www.gallerypress.com / 日本語訳は大野光子氏による

silent voice
「大坪美穂展―SILENT VOICE―」(ギャラリー・すずき)展示風景 2004年 ©Masataka Nagano
歴史が降らせる雨
《歴史が降らせる雨》(部分) 1990-2000年 ニュースペーパーほか ミクストメディア ©Masataka Nagano

基本情報

2024年度吉祥寺美術館企画展 大坪美穂 黒いミルク―北極光・この世界の不屈の詩―

会期 2024年4月13日(土曜)~5月26日(日曜)

休館日 4月24日(水曜)

開館時間 午前10時00分~午後7時30分

入館料 一般300円、中高生100円、小学生以下・65歳以上・障がい者のかたは無料

主催 武蔵野市立吉祥寺美術館(公益財団法人 武蔵野文化生涯学習事業団)

関連イベント

対談(1) 4月21日(日曜)午後2時00分~ 音楽室

 光田ゆり氏(多摩美術大学アートアーカイヴセンター所長・同大学院教授、プーアール舎主宰)

 大坪美穂氏

 

コラボレーション・ダンス 4月27日(土曜)午後3時~ 企画展示室

 深谷正子氏(ダンサー・振付家) 

 

対談(2) 5月11日(土曜)午後2時~ 音楽室

 大野光子氏(愛知淑徳大学名誉教授(アイルランド文学・文化専攻))

 大坪美穂氏

 

詳細は「イベント」のページをご覧ください

特別展示

大坪美穂―言葉は風となり―

会場 PENNY LANE GALLERY(コピス吉祥寺A館1階、吉祥寺美術館と同じ建物内)

会期 2024年4月26日(金)~5月2日(木)

開場時間 午前11時00分~午後6時00分 ※初日は午後2時から、最終日は午後3時まで

入場無料・会期中無休

一粒の種のように
《一粒の種のように》 「大坪美穂展 Witness―目撃者―」(ストライプハウスギャラリー)展示風景
2022年 ©Masataka Nagano