黒のうちとそとに

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ページ番号1002410  更新日 2022年3月28日

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会期
2021年3月4日(木曜)~5月30日(日曜)
会期中休館日
2021年3月31日(水曜)~4月9日(金曜)、4月28日(水曜)、5月26日(水曜)

浜口陽三のつくりだす黒は、天鵞絨(びろうど)のように私たちの視線を包みこみます。そして、私たちを画面のうちへと引きこみ、あるいは画面のそとに静かにひろがる空間を実感させるのです。

この浜口ならではの黒をつくるために、彼は、重労働である版の下地づくりを、決して職人任せにはせず自らの手でおこないました。「あえていうなら、ぼくの作品で大切なのは光かもしれない。闇に対する光という意味でね。だから闇、つまり黒の部分はもっと大切なんです」。

カラー・メゾチントの開拓者として名を知られた浜口。しかし、技巧としてはカラー・メゾチントのほうがより難しいけれども、作品の内容としては「黒は非常に難しい」と語っています。彼は木炭による素描にもさかんに取り組んでいましたが、それは、黒によって「あるものとあるものの区別」を表現することの修練である以上に、黒の奥ゆきを確かめる作業であったのではないでしょうか。

あわせて、今回は、“表”と“裏”を主題とする画家・谷(たに)充央(みつお)(1945年生まれ)のシルクスクリーン作品をご覧いただきます。谷の色面は、通例シルクスクリーンの特徴であるきっぱりとした切れ味ではなく、視線をたじろがせるような朧な調子によって成りたっています。表か裏か、はたまた画面のうちかそとか。まさに白黒つけられない様相は、二元的な思考をほどいてゆくようです。

うち、あるいはそと、どちらか一方にとどまることなく、無限のあわいを往来する。その振幅こそ作品がもつ奥深さであり、ひいては生きることの豊かさなのかもしれません。

*「」内引用はすべて『浜口陽三著述集 パリと私』(2002年、玲風書房)から

作品:くるみ
浜口陽三《くるみ》1959年

作品:メロンと筆
浜口陽三《メロンと筆》1955年

浜口陽三略歴

1909(明治42)年
和歌山県広川村に生まれる

1930(昭和5)年

21歳

東京美術学校(現東京藝術大学)彫刻科中退、パリに移住

1933(昭和8)年

24歳

サロン・ドートンヌに出品

1938(昭和13)年

29歳

パリで水彩画と版画の最初の個展開催

1953(昭和28)年

44歳

関野準一郎、駒井哲郎と共に日本銅版画家協会を創設

1954(昭和29)年

45歳

第1回現代日本美術展で「スペイン風油入れ」と「ジプシ-」が佳作賞受賞

1957(昭和32)年

48歳

第1回東京国際版画ビエンナーレで国立近代美術館賞受賞
第4回サンパウロビエンナーレ国際美術館グランプリ受賞

1961(昭和36)年

52歳

第4回リュブリアナ国際版画ビエンナーレグランプリ受賞

1977(昭和52)年

68歳

第12回リュブリアナ国際版画ビエンナーレサラエボ美術アカデミー賞受賞

1982(昭和57)年

73歳

北カリフォルニア版画大賞展グランプリ受賞

2000(平成12)年

12月東京で歿、享年91歳