北田卓史展 想い出の空飛ぶタクシー

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ページ番号1008175  更新日 2025年8月22日

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北田展 ポスター

会期
2025年9月20日(土曜)~11月3日(月曜・祝日)
休館日
9月24日(水曜)/10月29日(水曜)
開館時間
10時00分~19時30分
入館料
300円(中高生100円、小学生以下・65歳以上・障がい者の方は無料)
主催
武蔵野市立吉祥寺美術館<(公財)武蔵野文化生涯学習事業団>
協力

ポプラ社・Gakken SEED・小峰書店・至光社・世界文化ワンダーグループ・チャイルド本社・ひかりのくに・フレーベル館

理論社・EHONS(丸善ジュンク堂書店)

遺されたアトリエの扉を開けて

初公開の“月刊保育絵本”の原画を中心に 約200点を展示します!

 

童画家・北田卓史(1921‐1992)で想い出すのは、小学校の教科書にも掲載された短編童話・「白いぼうし」が収載された「車のいろは空のいろ」シリーズでしょう。空色の車を運転する“タクシー運転手の松井さん”と不思議な乗客たちの物語は、1968年刊行以降、世代を超えて広く親しまれています。戦後児童文学の第一人者である、あまんきみこ(1931‐)の傑作であり、児童書の挿絵画家・北田卓史の名をも決定付けました。北田は、同シリーズに加え、短編から絵本化された『山ねこ おことわり』(1977年)も担当。ファンタジーの世界を見事に具現化した登場人物たちは、たくさんの子どもたちの記憶にその姿を残します。また、挿画の担い手として、『チョコレート戦争』(1965年)、『さとるのじてんしゃ』(1968年)など、児童文学作家・大石真(1925-1990)の代表作も手掛けています。

しかし、北田卓史の魅力は、実は児童書にとどまりません。特に、1950年代末~70年代にかけて、月刊保育絵本の仕事を数多く担当。まさに“昭和の時代”に月刊保育絵本を舞台に活躍しました。その鮮やかな色彩と卓越したデザイン力、ダイナミックな構図は、従来の北田卓史のイメージを覆すような驚きに満ちています。幼児教育のために保育の現場で求められ、毎月刊行される月刊保育絵本は、発達段階に合わせたテーマが多く、北田も “おはなし”のみならず、“四季の行事”や“生活習慣”、“動物”、“童謡”に至るまで、さまざまな求めに応じて絵を描いています。特に、「東京工業専修学校」を卒業後、“機械技術者”として2年働いた経験も活かし、車や潜水艦、飛行機やロケットなど、細部描写にこだわったデザイン性の高い“乗りもの”は、当時の子どもたちの心をしっかりと掴みました。

本展では、北田の没後、アトリエに遺され、長年遺族が管理していた原画のなかから、約200点を展示。初公開となる、各出版社刊行の月刊保育絵本に掲載された、“幻の原画”を中心に紹介します。あわせて、本格的に童画の世界に入る前に、「きただ たかし」の名で手掛けた“漫画”や、ミニカーのコレクション、自身が手作りしたという、鉄道模型やジオラマなども参考展示。

北田が描く、日に焼けた肌と黒目だけで魅せる豊かな表情の子どもたちに、私たちはどうしてこんなにも惹きつけられるのか…。

さぁ、北田卓史の世界を心ゆくまでお楽しみください。

ゴーカートに乗った子どもたち
タイトル不詳(詩 蔵冨千鶴子)
*「こどものせかい」1968年5月号(至光社)掲載
ⓒ北田卓史

◆01 空飛ぶタクシーと乗り物たち / ◆02~03 月刊保育絵本での活躍(1960年代~1970年代を中心に)

 

 空色のタクシーと、運転手の制服を着た四角く優しい顔の“松井さん”。会場では、読者にとって懐かしい、北田卓史の世界へと、児童文学作家・あまんきみこ氏(1931-)の代表作「車のいろは空のいろ」シリーズの挿絵から誘います。

 そして、舞台は北田が、「童画家」として30代後半から本格的に活動を始めた「月刊保育絵本」の一枚絵の挿絵の仕事へ。月刊保育絵本とは、「園における教科書」のような存在といわれ、発達段階に沿って作られ、毎月、全国の幼稚園や保育園、認定こども園に配布されるのが特徴。特に総合絵本は、1冊にさまざまな要素がつまっています。本展では、「こどものせかい」(至光社)・「チャイルドブック」(チャイルド本社)・「よいこのくに」(学習研究社)・「あそびASOBI」(静岡福祉事業協会※1982年に廃刊)・「キンダーブック」(フレーベル館)・「ワンダーブック」(世界文化社)・「ひかりのくに」(ひかりのくに)という、現在も続く代表的な月刊保育絵本を中心に、今までアトリエの外に出たことのない“幻の原画”の数々を紹介。月毎に刊行されるが故の季節や学びというテーマや童謡、読み切りの“おはなし”を北田は遊び心いっぱいに描きました。油彩を用いた鮮やかな色彩と、ダイナミックな構図、おしゃれな幾何学模様の洋服やデザイン性の高い乗り物は、私たちを惹きつけてやみません。


潜水艦と子どもたち
『ぼたんを おしたら』(詩 巽聖歌)
*「こどものせかい」1963年7月号(至光社)掲載
空中ケーブル
『くうちゅう けーぶる』 (詩 薩摩忠)
*「こどものせかい」1967年7月号(至光社)掲載
クジラの歯みがき
『はみがきのうた』(詩 まど・みちお)
*「チャイルドブック」1963年6月号(チャイルド本社)掲載
お母さんの手
『おかあさんの て』(詩 間所ひさこ 作曲 湯山 昭)
*「チャイルドブック」1970年5月号(チャイルド本社)掲載

”月刊保育絵本”とは? 編集者と研究者の皆さん7名が、月刊保育絵本について解説してくださいました!

 「こどものせかい」(至光社)・「チャイルドブック」(チャイルド本社)・「よいこのくに」(学習研究社)・「あそびASOBI」(静岡福祉事業協会※1982年に廃刊)・「キンダーブック」(フレーベル館)・「ワンダーブック」(世界文化社)・「ひかりのくに」(ひかりのくに)に関わって来た編集者と研究者が、それぞれ自社の月刊保育絵本について解説文を執筆!詳細は、ぜひ、本展図録と会場のパネルをご覧ください。

 

磁石と北風
『さむくたって ねむくたって』
*「よいこのがくしゅう」1965年1月号(学習研究社)掲載
電車の一日 夕暮れ
『特集・でんしゃの いちにち』
*「よいこのくに」1964年8月号(学習研究社)掲載
ドーナツをあげる母子
あそび主催第6回童詩コンクール入選作品
『ぼこ ぼこ ぼこの ドーナッツ』(作詞 幸田昌子 作曲 服部公一)
*「あそび」1967年5月号(静岡福祉事業協会)掲載

月刊保育絵本に一年間掲載されていた「ぼくのライオン」シリーズから『しもやけ ぞうくん』が本展の図録で復刻!

 1968年に創刊した「ワンダーブック」4月号から翌年の3月号までの一年を通して、北田は「ぼくのライオン」シリーズ(作 山元護久)の挿絵を手掛けており、毎号掲載の読み切りの短編・全12話すべてに、4枚ずつ絵を提供。「ぼくのライオン」は、“たろう”少年と、突然やってきて、たろうの家に居候をはじめた“ライオン”の主人公コンビが奇想天外な冒険を楽しむ物語です。本展では、同シリーズの原画展示のみならず、第8話『しもやけ ぞうくん』(「ワンダーブック」1968年11月号掲載)を図録にて復刻。北田の美しくも躍動感のある挿絵と、山元の心躍るような文章が、ブックデザイナー・名久井直子氏の手で蘇ります。「ひょっこりひょうたん島」の脚本で知られる、山元護久氏(1934-1978)と北田卓史の名コンビの復活です。


空飛ぶライオン
ぼくのライオン(8)
「しもやけ ぞうくん」(作 山元護久)
*「ワンダーブック」1968年11月号掲載
夕暮れの宝島
ぼくのライオン(5)
『それいけ たからじま』(作 山元護久)
*「ワンダーブック」1968年8月号(世界文化社)掲載

 山元護久氏とのコンビは、戦後直ぐの大阪で1946年に創刊された「ヒカリノクニ」(のちに「ひかりのくに」に改題)から20年を経て、1969年に誕生した「エースひかりのくに」(1972年8月号)でも登場。物語の意図を汲み、ユーモアたっぷりに描かれた原画には、北田の遊び心が息づいているのです。

花模様のゾウ
『びっくり たまげた たまごの ぼうけん』(ぶん やまもともりひさ)
*「エースひかりのくに」1972年8月号(ひかりのくに)掲載

童話『ぷーくま うーくま』も「キンダーおはなしえほん」にて再刊行! ミュージアムショップでも販売!

 日本で最初の月刊保育絵本として知られる「キンダーブック」は、フレーベル館より1927年に創刊、100年近く読み継がれています。本展に際して、フレーベル館では、1973年に北田が描いた『ぷーくま うーくま』(原作 佐藤義美 文 稗田宰子)を「キンダーおはなしえほん」2025年9月号にて再刊行。現代の子どもたちのもとへと届けられました。

ぷーくまとうーくま
『ぷーくま うーくま』(原作 佐藤義美 文 稗田宰子)
*「キンダーおはなしえほん」1973年9月号(フレーベル館)

◆04 子どもたちに届ける心ときめく絵本/◆05 児童文学の挿絵・わたしたちの空色のタクシー

 北田卓史の画風は、50歳を超えて1970年代後半を迎えると、さらに軽やかに幼年期の子どもたちに愛されるタッチへと変化していきました。絶妙なユーモアに溢れる絵本の挿絵を数多く手がける一方、北田は至光社の武市八十雄(1927-2017)のもと、『ぽっぽぉー よぎしゃ』(文 矢崎節夫/至光社 1981年)に代表されるような抒情的で重厚な絵本も描いています。

 そして、北田卓史の代名詞ともいえるのが、『チョコレート戦争』(作 大石真/理論社 1965年)、『さとるのじてんしゃ』(作 大石真/小峰書店 1968年)、そして、「車のいろは空のいろ」シリーズから誕生した『山ねこ おことわり』(作 あまんきみこ/ポプラ社 1977年)。チョコレートのお城を盗む計画にドキドキし、自分も友だちと一緒に軽やかに自転車に乗れるようになりたいと願い、背広に身を包み目がぎょろりと光る「山ねこ」に驚きつつクスリと笑った、たくさんの子どもたちの想い出がこの代表的な3作品には詰まっているといえるでしょう.児童文学作家・大石真(1925-1990)の物語の場面を描いたカットは、力強い線描で、今でも子どもたちの空想力を掻き立て、いつのまにか楽しい冒険へと誘います。そして、最後に『山ねこおことわり』の原画を、表紙や見返しとあわせて披露。わたしたちの想い出に残る、“空色のタクシー”と“運転手の松井さん”をたっぷりご堪能ください。

本展を通じて、読書に夢中になった少年少女時代の懐かしさとともに、月刊保育絵本の原画を通して発見するであろう、童画家・北田卓史への新しい発見に対する喜びを、皆さまに感じて頂ければ幸いです。

 


虎をガブリ
小学館の創作童話シリーズ 12
『はらぺこのとこやさん』(文 小沢正/小学館 1974年)
シロクマたくさん
旺文社創作童話
『大あたりアイスクリームの国へごしょうたい』(作 立原えりか/旺文社 1982年)
夜汽車
『ぽっぽぉー よぎしゃ』 (文 矢崎節夫/至光社 1981年)
チョコレートケーキと少年
童話プレゼント『チョコレート戦争』(著 大石真/理論社 1965年)
自転車と男の子
表紙
創作幼年童話『さとるのじてんしゃ』 (作 大石真/小峰書店 1968年)
ヤマネコ兄妹と松井さん
『山ねこ おことわり』(作 あまんきみこ/ポプラ社 1977年)

*「北田卓史展 想い出の空飛ぶタクシー」展紹介記事内の画像について 無断転載および複写を禁じます。 © 2025 Nobuya Kitada, 武蔵野市立吉祥寺美術館

【北田卓史(きただ たくし)】

1921年東京生まれ。1940年、東京工業専修学校機械科卒業。その後、日立工事株式会社で機械技術者として2年勤務。退職後、画家を志し、戦時中は通信兵としてラバウルに従軍。戦後、赤本マンガ作家、探偵小説や偉人伝の挿絵などの仕事を経て、児童書の仕事に専念する。1946年に結成された、日本童画会に参加。1958年度(第12回)および、1959年度(第13回)の日本童画会賞を受賞。1962年、「こどものせかい」(至光社)の表紙ほかで第11回小学館絵画賞佳作賞を受賞。月刊保育絵本や絵本に多数の挿絵を提供した。日本児童出版美術家連盟会員。代表作に「車のいろは空のいろ」シリーズ(ポプラ社)、『チョコレート戦争』(理論社)、『さとるのじてんしゃ』(小峰書店)などがある。1992年8月歿。享年71歳。

会場に『チョコレート戦争』のフォトスポットができます! どうぞお楽しみに。

チョコレート戦争
『チョコレート戦争』に登場する子どもたちが、フォトスポットになります! ぜひ、会場に会いに来てください!

本展にあわせて作成! 「車のいろは空のいろ」グッズ(EHONS)をはじめ、『チョコレート戦争』や『さとるのじてんしゃ』の新作グッズが盛りだくさん!

トートバッグ
※画像はイメージです。実際の商品と異なる場合がございます

 タクシー運転手の松井さんのトートバッグ(画像)をはじめ、アクリルスタンド、ハンカチやマグネット、ミニレターセットなど、たくさんの新作グッズが登場。

それだけではありません! 名作『チョコレート戦争』・『さとるのじてんしゃ』をモチーフにしたTシャツやのお茶など、オシャレで可愛いグッズが盛りだくさんです!

関連イベント トークショー「童画家・北田卓史が描く世界は、なぜ私たちをこんなにも惹きつけるのか?」(1)

故・北田卓史のご子息・北田暢也氏と月刊保育絵本の編集者とのクロストーク!

日時

場所

10月5日(日)14時00分~15時30分(予定)

美術館音楽室

定員

70名(申し込み先着順)

申し込み方法

9月15日(月・祝)10:00より、電話(0422⁻22⁻0385)のみで受付開始。ただし、1回の電話につき2名まで受付可。

出演

北田暢也(故・北田卓史ご子息)・飯田俊(編集者/世界文化ワンダーグループ)・浅野久美子(編集者/チャイルド本社)

参加費
無料 ※ただし、美術館チケットが必要

関連イベント トークショー「童画家・北田卓史が描く世界は、なぜ私たちをこんなにも惹きつけるのか?」(2)

トムズボックスの土井章史氏、本展のポスター、図録のデザインを手掛けた名久井直子氏が登場!

日時

場所

10月12日(日)14時00分~15時30分(予定)

美術館音楽室

定員

70名(申し込み先着順)

申し込み方法

9月15日(月・祝)10:00より、電話(0422⁻22⁻0385)のみで受付開始。ただし、1回の電話につき2名まで受付可。

出演
土井章史(編集者/「トムズボックス」主宰)・聞き手 名久井直子(ブックデザイナー/本展デザイン担当)
参加費
無料 ※ただし、美術館チケットが必要