安田 由貴子・石井 久美子(武蔵野シティバレエ実行委員)
「『是非バレエもさせて』とお願いに行ったのが始まり」
――今年で35回目を迎える「武蔵野シティバレエ」。立ち上げのきっかけですが、武蔵野市民文化会館の竣工記念公演『ジゼル』(1984年)が一番最初の公演ですよね。まだ武蔵野シティバレエという名前もなかった頃です。
安田 (当時のチラシを見ながら)懐かしい!私がジゼル役で、石井先生がミルタ役。
石井 まだ踊れました(笑)、この頃は。
安田 武蔵野から「安田さんのところでやりませんか」ということでお引き受けしたんですけど、いかんせんうちは小さなスタジオなので、東京バレエ団のダンサーのご協力のもと、上演したんです。
――その頃って、文化事業団も市民文化会館もまだできたばかりの頃ですよね。
安田 はい。元々、市民文化会館ができると聞いて、「素晴らしい劇場が出来るのだから、『バレエも是非させてください』ってお願いに行かない?」と石井先生と話して。当時、仮の事務所が市民文化会館裏のコミセンにあって、そこにお願いに行ったのが最初です。
石井 (ダンス・バレエに必要な、床に敷く)リノリウムをリハーサル室と舞台に、鏡と(バレエ用の)バーをリハーサル室に。それも全部お願いしました。
安田 リノリウムの購入は、皆さん初めてでわからなかったのか、外国からとても本格的なものを取り寄せてくれたので、驚いて。
石井 私たちとしては工事とかに使う安価なものでよかったのに、外国からわざわざ舞台用のリノリウムを買ってくれたから、「えーっお金持ち!」って(笑)。
――そして、竣工記念公演『ジゼル』を上演したのですね。
石井 3公演で計4,000人を無料招待しました。学生や子どもたちを。
安田 バレエを知らない人たちに、こんないいホールがあって、バレエもできるんだよってことを、是非お見せしたいと思って。
――その翌1985年には『くるみ割り人形』を上演していますね。
安田 このときから既にダンサーを公募しているはずです。でもまだ武蔵野シティバレエは発足前で、これをやってみて、市内の振付家やダンサーにお声がけしたんです。それで、集まってくださったのが、初代実行委員。石井先生があちこちのバレエスタジオを訪ねていって、皆さんのご協力を得たんです。よく歩いてくださったんですよ。
――ところで、35年の間には、富山県利賀村(現・南砺市)、長野県豊科町(現・安曇野市)、新潟県小国町(現・長岡市)への地方公演もありましたね。
安田 その3つは、武蔵野市と友好都市なんですよね。市から「行きませんか」と話があって。みんなでバスに乗って行って現地に泊まって。大道具もリノリウムも全部東京から持って行った。ある程度東京でリハーサルして仕上げて、早めに現地入りして向こうでまたリハーサル。大変でしたよ。でも先生方はバレエ団でそういうのしょっちゅうだから、慣れてました。
――他に印象に残った公演は?
安田 後にも先にも1回だけの生演奏!第20回(2005年)の『くるみ割り人形』。「20回の記念だから、なんとか生演奏でできないかしらねぇ」と舞台監督さんに相談したら、「では友達に声かけてみますよ」って、あちこちから奏者を集めてくれて。すごくいいオーケストラでした。
石井 (プログラムを指して)「武蔵野シティバレエ祝祭管弦楽団」 だって(笑)。
安田 (笑)。でも演奏家は、かなり実力のある人たちが集まっていたみたいで、オケは短いリハーサルでいけたんです。地元の「むさし野ジュニア合唱団『風』」の子たちも出て、「雪のワルツ」のシーンで舞台の両花道に出て歌いました。
――公募した出演ダンサーと約5ヶ月リハーサルをして作品をつくる、という「武蔵野シティバレエ」ならではの難しさがあると思いますが、作品作りのコツなどはありますか?
石井 でもクラシックバレエの場合は基本が一緒で、いろんなスタジオから来ていても、ほぼ違いはないから。
安田 それと私の場合、コツは音楽ですね。「私はこういう風に音楽を感じてる」っていうのをダンサーに共有して、それに乗ってもらうこと。送り手(振付家、ダンサー)と観客の接点って、音楽なんですよ。だから音楽をどうするかって大切なんだけど、私の場合は、今の時代に合ったテンポにしたいんです。今ってメロディックというよりはビートの時代なんですよね。だからゆっくりやり過ぎると、お客さまが飽きてしまう可能性もある。そこはちょっとこだわってますね。
――2022年は安田先生の振付で『ジゼル』を上演しますね。来年、また今後の「武蔵野シティバレエ」について一言をお願いします。
安田 やるからには、単なる市民参加を超えて、お客さまに充分楽しんでいただきたいと思います。
石井 特にシティバレエは、小学生(※毎年、市内小学校から抽選で無料招待)とか初めてバレエに触れるお客さまが多いしね。
安田 だからやらせて貰えるのは嬉しいですね。バレエなんて、知らないと通り過ぎちゃうものだから。
石井 シティバレエも長いでしょう。ここからたくさんのダンサーたちが巣立って、作品や衣装など財産も増えました。
安田 伝統は大切にしつつ、時代に合わせて、新しく変えられる所はどんどん変えていってもいいのかな、と思いますね。
安田由貴子(やすだ・ゆきこ、写真左)
武蔵野シティバレエ実行委員。幼少より石井漠に師事。国立音楽大学声楽科卒。東京バレエ団に入団、国内外の公演にてソリストを務める。第1回モスクワ国際バレエコンクール第3位入賞(ペアー部門)。現在は安田バレエスタジオ主宰。
石井久美子(いしい・くみこ、写真右)
武蔵野シティバレエ実行委員。幼少より石井漠に師事。石井漠舞踊団員として、日本各地、マニラ公演等、参加出演。東京バレエ団団員を経て現在は安田バレエスタジオ主宰。