春風亭 昇太(落語家)

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ページ番号1003309  更新日 2022年4月25日

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写真:春風亭昇太

前座時代、師匠と一緒に出演した「武蔵野寄席」。
「緊張したけど、嬉しかったのを覚えています」

――昇太師匠は、「武蔵野寄席」の第1回(1985年)からご出演いただいてますね。今日は当時のネタ帳(落語のネタ=演目を記録 する帳面)をお持ちしました。

(ネタ帳を見て)今これを見るとですね、この字、うちの師匠の字なんですよ。普通こういうのって前座が書くんですが、僕ではなく、トリを取るうちの師匠(※「武蔵野寄席」の立ち上げに尽力した5代目・春風亭柳昇)が書いてる。これ、よっぽどこの「武蔵野寄席」をやりたかったんだと思いますよ。すごく気合いが入ってる。それか、僕のことを信用してないか、どちらかです(笑)。師匠は地元・武蔵野市で落語をやりたいという思いがあったと思うんですが、それがこのネタ帳を見てもわかりますね。当時、僕は前座時代で「昇八」という名前だったんですけど、師匠と一緒にこういう落語会でホールに出るってことはそれまでやったことがなくて。だから緊張もしたけど、嬉しかったのを覚えてますね

――当時の書類を見ると、出演者変更のお知らせも直接、柳昇師匠からいただいていたようです。

はい、顔付け(出演者決め)も全部、うちの師匠がやってました。いろんな噺家さんや曲芸・マジック・漫才の師匠方に、うちの師匠が直接電話して。よく他の場所で落語家さんと一緒になった時に、「こういう会があるんだけど、出てくれませんか?」と交渉をよくや ってましたね。

――武蔵野市関前(せきまえ)に柳昇師匠のご自宅があり、前座 時代も通われてたかと思いますが、街の思い出などはあります か?

いつも師匠の家に行く時はバスに乗って行くんですけど、吉祥寺からだったので楽しかったですね。わざと駅からでなく商店街を通って、そこを出てからバスに乗って行くんですよ。お金もなかったから何を買うわけでもないんだけど、ぶらぶらしながら行って、帰りも同じように帰って。うちの師匠、あまり怒ったりしなくて、すごく可愛がってもらって。師匠のうちに行くのは楽しかったですね。

写真:春風亭笑太

――その後も「武蔵野寄席」に37年間で計22回出演いただいてますね。

落語家ってネタ帳が残ってるので、前回の出演時に何のネタをやったかわかるんですよ。で、それを見ながら被らないように毎回ネタを選ぶんですが、自分の得意なネタからやっていくので、出演回数を重ねていくと、得意でないネタにだんだんなってくんです。だからこういう風に、ひとつの会場で何度も何度も出る落語会ってのは、勉強しないと出られなくなるんですよ。なので勉強になりましたね。得意なネタを1つでも増やさなきゃいけないっていう気持ちになるので。落語が好きなお客さん、近所の方など、毎回来て下さる方もいらっしゃるので、「前とは別のネタを聴いていただきたい」という気持ちになるし、すごく勉強になりました。

――この37年間の間で、武蔵野公会堂自体はどんどん老朽化していき、変わっていったかと思いますが・・・・・・。

でも僕ね、古い建物が好きなんですよ。この武蔵野公会堂も、横から見るとすごく味があって、ああ、あの時代に建てたんだなぁってことがわかる。今、この時代に建ったホールはどんどん少なくなっているので、僕、この公会堂の楽屋とか、トイレの写真とかを撮ってあるんです。で、隣の楽屋に前は、冷蔵庫が置いてあったんですよ。その冷蔵庫がね、すごくレトロで、来る度にいいなと思ってて。でもある時来たら、部屋の内装が綺麗になって、冷蔵庫がなくなってて。ああ~欲しかったなあって(笑)。まぁ市民の備品だから貰いようがないんですけど。僕がこれを貰って、買い換えてあげたのにって(笑)。あれだけですね、惜しいのは。

――2020年、コロナ禍の中で「柳昇生誕百年記念公演」、そして「柳昇一門会2021」と、武蔵野文化事業団、公会堂とはまた新たな形でご縁が出来ています。

おかげさまで、いろんなホールで落語をやらせていただく機会が増えたんですけど、落語って本来、あまり広い場所でやるようなものではないんですよ。1,000人、1,500人のホールだと、正直言って、前のお客様と一番後ろのお客様とで落語の響き方が違ってきちゃう。そういう意味で、公会堂の大きさって、前も後ろも把握できて、すごくやりやすいんです。でも、こういうホールが実は少なくなっている。今、どんどん建つホールが大きくなってて「大は小を兼ねる」ってことだと思うんですけど、実際は必ずしもそうではないんですよね。なので、これだけのホールで、しかもうちの師匠がやっていたところで一門会をやらせていただくのは、とてもありがたいことですね。これからも機会があれば、利用させていただきたいなと思っています。

 

春風亭昇太(しゅんぷうてい・しょうた)
落語家、公益社団法人落語芸術協会 会長。静岡県出身。1982年、春風亭柳昇に入門。1992年、真打昇進。NHK新人演芸 コンクール優秀賞、花形演芸大賞「金賞」「大賞」、文化庁芸術祭(演芸部門)大賞、文 化庁長官表彰など受賞多数。2016年より日本テレビ「笑点」6代目司会者。