海老澤 敏「武蔵野文化事業団のこれまでをふり返って思うこと」

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ページ番号1003307  更新日 2022年4月25日

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写真:海老澤 敏

武蔵野市民文化会館 名誉館長
海老澤 敏

 市民に優れた芸術文化を提供するために武蔵野文化事業団が設立されたのは今から37年前の 1984年11月。この事業団が運営する武蔵野市民文化会館も同時にオープンし、その名誉館長とし て私が関わることになったのでした。多目的ホールとしての大ホールとデンマークのマルクーセン&ソン社製パイプオルガンを備えた音楽専用の小ホールの二つのホールの他に展示室、茶室、和室、 練習室なども整えられており、コンサートのみならず、多様多彩な催しが繰り広げられて来ました。 私の専門分野であるクラシック音楽の分野に限ってみても、例えばオルガンを備えたホールが多く 建てられるもののオルガンが使われる機会がなかなかないままに終わっている状況にある中で、武 蔵野市民文化会館はオープンの4年後にはアジアで初となる国際オルガン・コンクールをスタート させたのをはじめ、その企画の独自性は際立っていたと思っています。その独自性をもっとも端的に 著しているのが、事業団の主催事業のチラシと低く設定されたチケット代金だと言えましょう。

 クラシックのコンサートではほとんどのチラシが専門家によってデザインされたカラー印刷で作 られている中、この事業団のチラシはモノクロで印刷されたものであるばかりか、チラシに記された コメントがまたユニークなもので、さらにチケット代金が都心などのホールと比べてはるかに低く設 定されていたことは、武蔵野市民のみならず、このチラシを眼にしたクラシック音楽ファンの間でま たたく間に評判となっていったのです。そして完売コンサートが多くなって行き、事業団の運営は順調 に展開して行きました。

 武蔵野文化事業団が設立当初から今日(こんにち)に至るまで貫いてきたユニークな運営は、市民のことを 念頭に置く姿勢から来たものであったと思っています。公益財団法人武蔵野生涯学習振興事業団と の吸収合併後も、市民を第一に思うというこの姿勢が引き継がれることを願っています。


 

海老澤 敏(えびさわ・びん)
国立音楽大学名誉教授、尚美学園大学名誉教授、日本モーツァルト研究所所長、ザルツブルク国際モツァルテーウム財団名誉財団員。国立音楽大学学長・学園長・理事長、日本音楽学会会長等を歴任。紫綬褒章、オーストリア共和国有功勲章学術・芸術第一等十字章ほか受賞(章)。文化功労者として顕彰。